どんなものでも、思い出があるものから物語が作れるのか確かめたいです。
正直にいうと、私は「スニーカー」に対して強い感情は何も持っていません。大した思い出はないと思っています。
弱い思い出しかない「スニーカー」からでも、物語の種は作ることができるのか確かめたいのです。
「スニーカー」をブレインダンプする
「スニーカー」をブレインダンプした結果、次のような記憶や思い出が出てきました。
- 近藤正彦「スニーカーブルース」
- チューリップ「虹とスニーカーの頃」
- マイケル・ジョーダン
- バスケットシューズ
- エアークッション
- 散歩
- 公園清掃
- 穴があくまで履きつぶす
- 980円のスニーカー
- かかとの靴ずれ
- 初めて買ったブランドのスニーカー
- 犬の糞を踏んだ雨の日
記憶や思い出を選択する
ブレインダンプで出てきた記憶や思い出の中から、物語の種になりそうなものを選択します。
今回は一つの思い出に絞るよりも、いくつかのまとまりで選んだ方が物語になりそうな気がしました。次のまとまりです。
- 散歩
- 公園清掃
- 穴があくまで履きつぶす
- 980円のスニーカー
- かかとの靴ずれ
- 初めて買ったブランドのスニーカー
- 犬の糞を踏んだ雨の日
私の中で、スニーカーにつながる一連の思い出です。
これらの思い出を全て使うわけではありませんが、漠然としたイメージが浮かびました。
選んだ思い出から物語の種を構成する
今回は主人公や邪魔するもの、モチーフなどから先に考えてみたいと思います。
どんな主人公で、どんなことを邪魔されたら面白いかを考えてみます。
主人公
私の想像の中に一人の老人の姿が浮かびました。
公園の清掃のアルバイトをしながら、古いアパートで独りで暮らす老人です。
老人は結婚経験があります、子供ができる前に離婚しています。離婚の原因は、優しくて良い夫になると思っていたけれど、優柔不断で出世も期待できない夫に、妻が嫌になったためでした。
老人は離婚した後、ずっと独り身を通してきました。色々な職業を経験しましたが、何一つ成功したものはありませんでした。
今では老人の両親も世を去って、兄弟姉妹もなく、親戚付き合いも少ない老人は、公園清掃のアルバイトをしながら、家賃の安い古いアパートに暮らしています。
老人の唯一の楽しみは、ある公園の片隅に棲み着いた野良猫に餌をやることだけです。
老人は、挨拶も禄に返さず、ケチで偏屈な年寄りと周りから見られています。
主人公を邪魔するものは?
老人のたった一つの心の安らぎだった野良猫に会えなくなるようなことが良いと思います。
何がいいか…。
野良猫は死んでしまうのか?行方知れずになるのか?
あっ!「スニーカー」はどうしましょうか?
「スニーカー」は思い出の呼び水に過ぎないので、使わなくても構わないのですが、せっかくなのでモチーフに使うことも可能です。
一つ浮かんだアイデアはこうです。
ある小雨が降る日、老人が毎日餌を与えていた野良猫の姿が突然見えなくなります。
心配になった老人が翌朝公園に行くと、いつも猫がいた辺りに真新しい足跡が残っています。
大きなサイズの靴跡だったので、老人の印象に強く残ります。
この靴跡はスニーカーの靴跡で、野良猫を連れ去ったある青年のものだったのです。
ここである青年が登場人物として必要になりました。
その青年はどんな人物なのか?
どうしてその青年は野良猫を連れ去ったのか?
小動物を虐待する異常な性格の青年にすべきか?
老人と同じように、野良猫に愛情を感じた心寂しき青年にすべきか?
後者の方が先の展開が見えなかったので、敢えて後者にしたいと思います。
この青年は、コンビニでアルバイトをしています。
青年は小学校や中学校で、いじめや不登校を経験しています。高校を卒業しても就職することなく、コンビニでアルバイトを続けています。
青年は実家ぐらしで、アルバイトしたお金は自分のことだけに使っています。
小雨の降る夜、仕事の帰りに公園を通ると、野良猫が泣いていたのです。
雨に濡れた野良猫をかわいそうに感じた青年は飼ってみたくなり連れ去ります。
老人と青年は野良猫を軸にして対立する関係になります。
クライマックスは?
この物語のクライマックスはどうなったら面白くなるでしょうか?
プロット的には、起承転結の転にあたる部分です。
可愛がっていた野良猫の姿が見えなくなって、老人は野良猫を探します。
一方、青年に拾われた野良猫ですが、生き物を飼うことを嫌がる家族に黙って、裏庭の物置の陰にダンボールを置き、紐でしばっておきました。
しかし、青年が出かけている間、鳴き声で気がついた父親が野良猫を逃してしまいます。
逃げ出した野良猫はまた元の公園に姿を現すのです。
その公園で、老人と青年が野良猫を巡って争うのはどうでしょうか?
なんか面白くなさそうですね。野良猫にそこまで執着するのも無理がありそうです。
もっと自然な形でクライマックスを考えられないでしょうか?
こんなアイデアはどうでしょうか?
青年はブランドのスニーカーに執着していました。なけなしのお金をスニーカーだけに注いでいるような青年だったのです。
自己重要感がなにもない青年にとって、ブランドのスニーカーだけが、自尊心を支えてくれていました。
友達もいない孤独な寂しさから飼い始めた野良猫を、紐でつないで散歩をさせている途中、ベンチで一休みしている時、足元にいた野良猫が青年のスニーカーに放尿してしまいます。
腹を立てた青年は、野良猫を蹴飛ばしてしまうのです。そこを老人が偶然目撃します。
横たわった野良猫を放ったまま青年は立ち去ってしまいます。見守っていた老人は、野良猫を抱き上げて介抱するのです。
青年の野良猫に対する愛情は表面的なもので、寂しさを紛らわすためのものでしかなかったのです。
一方、老人の愛情は本物であったという設定はどうでしょうか?
この物語のクライマックスは、青年の偽物の愛情が暴露して、老人の愛情が際立つ瞬間にしたいと思います。
そのクライマックスが際立つように、青年の野良猫への可愛がり方だけでなく、コンビニでの働きぶりやアパート周辺での周りの人たちの印象を好意的に描く必要があります。
逆に、老人については変わり者で、ケチで頑固でといった、外に愛情を表さないような人物に描くといいですね。
この両者の印象が逆転する落差をクライマックスで描きます。
青年の家族(両親)は、教育熱心であるけれど、小動物を飼うことなど無駄なことと思っているような薄情な人たちとして描いて、青年の人格形成を援護するようにしたら、物語に深みがでるでしょう。
青年を一方的な悪として描かないということです。
モチーフ
当初は「スニーカー」をモチーフにしようかと思いましたが、スニーカーは青年の執着の象徴になってしまったので、テーマに対立するため変更します。
テーマは「野良猫への本当の愛情」にしたいので、それを象徴するものをモチーフにしたいです。
本当の愛情を感じさせるようなものはないか?
思いつかない…
待てよ、「スニーカー」をモチーフにできるかも知れない。
老人の履いている靴が、安物の汚れたスニーカーという設定はどうでしょう?
青年のブランドの高価な靴との対比にもなります。
物語のエンディングで、公園を清掃する老人が、砂場で猫の糞を踏んでしまいますが、老人は何事もなかったように平然と清掃を続ける、みたいな終わり方はどうでしょう?
テーマ
「野良猫への本当の愛情」
コンセプト
「ケチで偏屈な変わり者と思われている老人だったが、一匹の野良猫が姿を消したことで、老人の本当の野良猫への愛情が明らかになる」
コンセプトを考えた後、老人を次のように描く必要を感じました。
ケチで偏屈な老人は、周りのものから見て、
- 「猫に餌などもったいなくてやるような人には見えない」
- 「自分以外のものに関わるような人には思えない」
こういう印象を与えるような老人として描くと、クライマックスの落差が強調できると思います。
それから、野良猫がいなくなって、老人は野良猫を探し回ります。
その際に良く似た飼い猫を誤って連れ去ろうとして、飼い主に非難されるような失態、野良猫への愛情からくる失態を描いたら良いと思いました。
*今回は、かなり細部まで前もって検討しましたので、プロットとあらすじは割愛します。
実践練習の感想
今回は主人公と主人公を邪魔するものを先に考えましたが、コンセプトによって修正の必要を感じました。
最初に決めるべきはコンセプトなのではないかという思いを強くしました。
ただ、いきなりコンセプトを考えるには、主人公やクライマックスのことが想像できていないとできないし、難しいですね。結論は持ち越しです。
今確かなことは、コンセプトって重要なんだなと改めて感じました。
コンセプトが整理されていると、物語全体がしっかりするのがわかりました。