小説の実践練習2「サングラス」の記憶や思い出から物語の種を見つける

小説の実践練習2「サングラス」の記憶や思い出から物語の種を見つける

物語はどこから生まれてくるのか?あるいは、物語はどこから作り出すのか?

今私が一番知りたいこと、確かめたいことは、物語の最初の最初はどこにあるのか?どうやって見つけるのか?どうやって物語に作っていくのかということです。

その答えになるのではないかと考えていることがあります。

それは、自分の記憶と思い出の中に、物語の種が眠っているのではないかということです。

自分の記憶や思い出の中に物語の種が眠っているとしたら、それは無尽蔵の物語の宝庫を手に入れているようなものです。

私はそれを、小説の実践練習も兼ねて確認したいと思っています。

「好きなもの」「嫌いなもの」をブレインダンプ

「好きなもの」「嫌いなもの」をブレインダンプ

具体的には、「私の好きなもの」「私の嫌いなもの」などでブレインダンプしたキーワードを、更にブレインダンプして出てきた記憶や思い出に物語の種を見つけるというやり方です。

自分の好きなものや嫌いなものに注目したのは、自分の何かしらの思いがこもっていると考えられるからです。

嬉しかったことや悲しかったこと。誇らしかったことや恥ずかしかったこと。喜びや怒り。

好きなことや嫌いなことの記憶や思い出の中には、その時の生々しい感情が刻み込まれているはずです。

その感情を呼び起こすことができれば、そこから物語の種を見つけることができるでしょう。

「サングラス」の記憶や思い出をブレインダンプ

「サングラス」の記憶や思い出をブレインダンプ

私の好きなものの一つに「サングラス」があります。どうしてサングラスが意識されたのかをブレインダンプしてみました。

「サングラス」のブレインダンプ

  • 夏の強い日差しと紫外線から目を守ってくれる。
  • 夜間の運転で、対向車のヘッドライトの眩しさを軽減してくれる。
  • アメリカ占領軍のマッカーサー将軍のかけていたレイバンのサングラス。
  • 金髪と同じで、日本人がかけるとキザが鼻について似合わない。
  • 高校生の時、ミラータイプのサングラスを買ったが、「どこを見てるかわからない」と不評だった。
  • 父親からもらったメガネにかぶせるタイプのサングラスでマス釣りに行った時の嫌な思い出。
  • サングラスをかける心理とは何だろう?
  • タモリ、井上陽水、森田童子、宇崎竜童、Mr.マリック、サンプラザ中野が思い浮かぶ。

ブレインダンプしてみると、記憶や思い出の中には、良いことばかりでなく、嫌なこともあることに気が付きます。

また、普段は全く意識したこともないことが呼び起こされるのがわかります。

記憶と思い出の中から物語の種を選ぶ

記憶と思い出の中から物語の種を選ぶ

「サングラス」についてブレインダンプした記憶や思い出の中から、物語の種になりそうなものを選びます。

本当は、どれを選んでも何かしらの思いがあるはずなので、物語の種になると思っています。

ここでは、「父親からもらったメガネにかぶせるタイプのサングラスでマス釣りに行った時の嫌な思い出がある」を選びたいと思います。

ブレインダンプした中で、最も感情が振れた思い出だったからです。

物語の種の構成を考える

物語の種の構成を考える

選んだ思い出を元に、物語の種になるように構成を考えます。

テーマ

憤怒の感情を支えたもの

コンセプト

川マス釣りに出かけた少年は、釣り場を独り占めする男に邪魔者扱いされた時、父親からもらったサングラス越しに黙って睨み返すと相手は嫌気がさしてその場を去った。

プロット

起:「父からもらったサングラス」

  • 釣り好きの父のサングラス。
  • 大人になったような気分。

承:「初めての川マス釣り」

  • 混み合う川マスの釣り場。
  • 少年と友達は離れた釣り場に。

転:「場所を独り占めする男」

  • 場所を独り占めする男。
  • 「ガキなんかが来るんじゃねえよ、バカやろう!」

結:「睨み返す少年」

  • 少年は怖かったが、黙ってサングラス越しに睨み返す。サングラスが勇気を支えてくれた。
  • 男は少年に嫌気がさして他所へ行ってしまう。

あらすじ

「明日友達と川マス釣りに行くんだ」

風呂から上がって足の爪を切っている父親に少年は言った。

釣りが趣味の父親が、いくら誘っても行くことのなかった少年が、友達と釣りに行くと聞いて、父親は嬉しかった。

中学生になってから、あまり口を利かなくなった息子から、父親の好きな釣りに行くのだと言ったことが、父親を気遣っているようで嬉しかった。

「そうか」

父親はそう言うと、奥の部屋に行って、何かを手にして戻ってきた。

「これを持っていくといいぞ」

それは、メガネの外側に掛けるタイプのサングラスだった。

「川釣りはウキの動きを良く見ないとな。それと場所を選ばないとだめだ」

釣りが素人の息子に、久しぶりに父親らしいことをしている様で、いつもより父親は良くしゃべった。

少年は父親の言うことを聞き流しながら、濃い緑色に光るサングラスを手に持って眺めていた。

「これを掛けたら大人になったような気分になるんだろうな」

少年は明日が楽しみになった。

翌朝少年は友だちと待ち合わせ、マス釣り場までの15キロの道を自転車で向かった。

「サングラスかよ?」

友達は呆れたような顔をした。

「かっこいいだろ?」

友達は笑うだけで答えなかった。

釣り好きの友達には慣れた道らしく、上り坂の曲がりくねった道もスイスイ登っていくのを、少年は必死に追いかけていく。

中学に入って初めてできた友達なので、少年は興味のなかった釣りの誘いを断らなかった。

少年にとっては、誘われたことが嬉しかった。

5月の連休ということもあって、マス釣り場は大勢の人で賑わっていた。

河原のあちこちにビニールシートを敷いて、家族連れが楽しんでいた。

友達と少年は、受付で釣り竿と餌を受け取ると、釣り場を探し始めた。

少年は初めてだったので、友達の後を付いて行った。

「この辺は混んでてだめだから、もっと下の方へ行ってみよう」

二人は下流の方へ向かった。釣り場の外れまで下ってきて、誰もいない溜まりを見つけて、二人は竿を下ろした。

友達はいかにも釣り慣れた動作で、餌を付けたり竿を振って、直ぐにも釣り上げるような表情で集中している。

少年は餌のウジ虫を気持ち悪く触りながら、友達のやることを真似して釣りを始めた。

しかし、場所が良くなかったのか、しばらく経っても二人の竿に魚のあたりはなかった。

「上の方へ戻ろうか?」

少年も友達の言う通りだと思った。二人は釣り人で混んでいる上流に戻った。

相変わらず、釣るスペースを見つけるのも大変なほど混んでいた。

友達は釣りの先輩としての意地なのか、なんとか結果を少年に見せたいと思っていた。

友達は少年のことは構わずに、少し空いたスペースへ器用に割り込んでしまった。

残された少年は、仕方なく空いている場所を探して更に上流へ向かった。

しばらく行くと、少年でも楽に入れるスペースがある釣り場があった。

先に釣っていた男の両隣が不思議と空いている。

少年がその場所に入っていくと、男が少年の方を見て小さく舌打ちした。少年には聞こえなかった。

少年は慣れない手付きで、餌を付けたりウキを投げ入れたりしながら、友達より早く釣ってやろうと思った。

何度目かの魚の当たりがあった時、少年が合わせて上げた竿が振れすぎて、男の持った竿にかすかに振れてしまった。

すると横の男が少年に向かって怒鳴った。

「おめーみてーなガキが、こんなとこへ来んじゃねえよ、バカ!」

少年の顔から耳にかけて、血液が逆流するように熱くなった。

男は釣りを続けながら、時々少年の方を振り向いた。

少年は黙って釣り竿を握っていた。男がイライラしているのを少年も感じていた。

「どっかへ行けよ!バーカ」

男は少年の反応を見ていた。

少年は黙ったまま男を睨みつけた。

少年は声を出さずに、「うるせえ」と口を動かした。

男には、少年が何を言ったのかわからなかった。

少年は男を睨みながら、無言の「うるせえ」を繰り返した。

少年がこんな態度に出たのは、父親からもらったサングラスがあったからだ。

濃い緑色のサングラスを通すと、少年は普段は持っていない意地のような勇気が湧いてくるのを感じていた。

少年の反応に、嫌気がさしたのか、気味悪く感じたのか、それとも釣れなくて諦めたのか。男はまた舌打ちをすると、その場を離れた。

少年は、下流の方へ歩いて行く男の後ろ姿をまだ睨みつけていた。

「うるせえ、バーカ!」

少年は小さく声に出して言った。

実践練習の感想

  • 今回は「サングラス」を最初から意識してモチーフ(物語のテーマを象徴するもの)にした。
  • たかがサングラスに少年の意地のような勇気を支えるだけの力があるかを、説得させるだけの表現力がもっとあればと思った。
  • 不思議と私の想像する物語は、主人公が少年になってしまう。これは、おそらく私にとって少年期が最も感受性が強かったからだと思う。
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