
映画のシナリオの書き方の本を読んでいる時、ふと頭に浮かんだシーンを書いてみたことがあった。
ワンシーンだけのつもりで書いていたのだが、とても楽しく感じた。
そのシーンは物語の冒頭のシーンのつもりで想像したのだが、このシーンが次にどうつながり、最後にどうなるかなどは考えていなかった。
このシーンから構成を考えて、山場はどうするか、結末はどうなるかを考えるのは、今の私にはまだかなりのエネルギーを必要とする。
それだけでなく、構成がまとまったとしても、それはそれで最初のわくわくした感情が薄れるのも事実なのだ。
その時思ったのだ。構成力のまだない私には、物語を完成させるよりも、ごく小さな物語りの断片=ワンシーンをいくつも描写する練習を繰り返した方が良いのではないかと。
- ワンシーンだから後先を考えずに気軽にできる。
- ワンシーンだから細部まで描写できる。
- ワンシーンだからいくつも描写できる。
- ワンシーンだから途中で飽きずに継続できる。
こういう要素が元になって、私にはとても楽しく感じられるのだ。
ワンシーンだから後先を考えずに気軽にできる
私だけに限らず、誰にも心の中、記憶の中に残っているイメージや、なんの脈絡もなく何かのイメージが頭に浮かんだりすると思う。
それらのイメージについて、「これは物語になるだろうか?」などと考えていると、なかなか物語など書き始めるのは難しくなる。
頭に浮かんだイメージや記憶の中に残っているイメージを、物語の構成など考えないで、ただワンシーンとして描いてみることなら直ぐにとりかかれる。この気軽さがいいのだ。
ああでもない、こうでもないと構成について思考を巡らすのも大事なのだが、初心者には数多くの物語の断片を描く方が必要性が高いと思う。
ワンシーンだけなら、気軽に直ぐ書き始めることが出来るのがいいのだ。
ワンシーンだから細部まで描写できる
たとえ小さな物語だとしても、起承転結の定型的な構成だけでもかなりの分量になる。そうなると各場面の描写は、一つの場面だけを描くのに比べると描写量や集中力は必然的に薄れてくる。
ワンシーンの分量は自由に決められる。一行でも可能だし、100行でも1,000行でも構わない。いくらでも好きなだけ細部まで描けるのだ。
そう考えるとワンシーンの中で、もしかしたら自然に起承転結のようなものが生まれるような気もしてくる。自然に生まれる起承転結のようなものが。
構成を考えてから描くのではなく、描いた結果で生まれる構成のようなもの。ワンシーンを描くことのゴールがあるとすると、私はその辺のような気がする。
ワンシーンから自然に生まれる物語の断片。しかし、ただの断片では終わらないと思うのだ。
ワンシーンだからいくつも描写できる
まとまった小説をいくつも完成させることなんて、初心者には夢物語の世界だ。でも、断片的なイメージだったらいくつも持っている。
果たして物語に発展するかは定かではないイメージは、小説の完成に至るまでには表に表れることがなく殆どが眠ったまま終わってしまうだろう。
だけどワンシーンというごく短い物語の形の中なら、それらのイメージは生かされる。自分の中に眠っている様々なイメージが主人公になれるのだ。
おとぎ話のような幻想的なイメージ。過去の悲しい体験の現実的なイメージ。憧れの未来の姿を想像する理想的なイメージ。時空のはての世界で起こる空想的なイメージ。千差万別の関連のない雑多なイメージそれぞれが主人公として生かされる。
小説の完成など考えていたら、永遠に陽の目を見ないであろうイメージが生かされるのだ。
ワンシーンだから途中で飽きずに継続できる
私だけではないと思うが、物語全体の構成を完成してしまうと、新鮮味が薄れるのか、結末がわかってしまうからか、何故か当初のわくわくした気分が損なわれてしまう。
その点、ワンシーンなら描写範囲がとても短いし、結末もどうなるかわからないので、わくわくが保たれて飽きることがない。
今自分が描写しているのは、物語の始まりなのか、中盤の場面なのか、あるいは結末のシーンなのか、そういうことを深く考えずにひたすらワンシーンに集中する。
ワンシーンだから構想などという面倒な作業がない。そのシーンだけを考えるだけだから必ず完成できる。なにしろ一行でもワンシーンなのだから。
ワンシーンなら途中で飽きたり行き詰まったりすることがない。だから途中でつまずかずに最後まで作業を継続できる。
これからワンシーンだけを描写する練習を続けてみよう
これから当分の間、私の過去の記憶や想像の中に散在するイメージたちを題材にして、ワンシーンだけを描写する練習を続けていこうと思う。
ワンシーンだから、それが物語になるのかどうかもわからない。わからなくていいのだ。全体的なことを考えずにワンシーンだけに集中したい。
まだどうなるか予想もできないが、ワンシーンだけの描写の練習を継続していったら、何か新しい発見があるような気がしてならない。
もしかしたら、ワンシーンでも物語として完結してしまうような物語になるかもしれない。もしかしたら、ワンシーンから物語の全体像が浮かび上がってくる場合もあるかもしれない。
とにかく、私の中にあるどうでもいいようなイメージの数々を、全てワンシーンとして出し尽くしてしまいたい気持ちで一杯なのだ。