小説の実践練習5「防犯カメラ」の疑問を重ねて物語の種を見つける

小説の実践練習5「防犯カメラ」の疑問を重ねて物語の種を見つける

私は最近防犯カメラを購入しました。比較的廉価な商品を選んだので贅沢な買い物ではありませんが、そこには何かの意識や感情の動きがありました。

この意識や感情の動きの中に、物語の種を見つけることはできるでしょうか?

私は今、自分の心に蓄積されていく記憶や思い出の中に、物語の種になるものが潜んでいると思っています。

記憶や思い出に残るには、そこに何かの残るべき理由があるからで、その理由こそ物語の種になるものと考えるからです。

私が防犯カメラを買った時の心理にも、物語の種がきっと潜んでいるはずです。

防犯カメラが欲しい理由は?

  • 最近悪質な強盗事件が増えた。
  • 安価で高性能の防犯カメラが出回っている。
  • 業者に頼まなくても自分で設置できる。
  • 防犯カメラを設置してない家は狙われやすく思われる。

使ってみてわかったことは?

  • スマホと連携して監視できるので便利。
  • 安全性が高まった安心感。
  • 家の価値が高まったような満足感。
  • 先端技術を手に入れたような優越感。
  • 1台設置すると2台目を求める欲が出る。

購入時にどんな心理が働いたのか?

  • 自分の身の安全は自分で守るしかない。
  • 自分だけ世間から取り残されたくない。
  • 自分だけ助かりたい。
  • 新しいものを手に入れた優越感に浸りたい。

防犯カメラとは?

  • 安全な立場から監視する。
  • 悪い人を監視する。
  • 証拠を記録する。
  • 監視を知らせて犯行を未然に防ぐ。

物語の種はあるか?

物語の種はあるか?

「防犯カメラ」について色々疑問を考えてきました。それらへの答えの中に、物語の種がないか見返してみます。

私は以下の2つの点が、物語の種になるのではないかと思いました。

  • 「自分だけ助かりたい」という独善的な欲望
  • 「監視して記録する」という執着的性格

人間の欲望とか執着とか、人の本音に近いものが面白そうに感じました。

どんな主人公を想像する?

深刻な病気を抱える家族に、健康な臓器を移植するため病院から新生児を誘拐してきた主人公。

家族の中に、このままでは助からない病気の家族がいて、その家族の命を助けたいと思う主人公が、臓器移植のために新生児を誘拐してしまう。

主人公は難病の子供を抱えて必死に生きている30代半ばの母親。主人公はこれまで誰かに迷惑をかけたり、悪いことをしたことなどない。

「真面目に一生懸命生きてきたのに、どうして私だけこんなに苦しまなければいけないの?」

主人公は乳幼児を育てながら働いている。7年前に結婚してから子供に恵まれず、不妊治療を初めて4年目にして授かった我が子は難病を抱えていた。

子供が生まれて以来夫婦の間は冷え切って、主人公は2年前に離婚し、一人で働きながら子供を育てている。

主人公への疑問

想像した主人公の細部を深堀してみます。

主人公のプロフィールは?

主人公自身も母子家庭で育っている。母親の苦労を見てきているので、温かい家庭を求める気持ちは強い。

高校を卒業すると、アルバイトをしながら夜間の看護師専門学校で学び、準看護師の資格を得て、依頼10数年、産婦人科医院に勤めている。

27歳ごろ、同僚の紹介で知り合った男性と結婚する。夫になった男性は地方の大きな農家の次男で、大学に進学して東京に出てきて以来、医療機器メーカーの営業として勤務している。

二人の結婚は夫の実家からは当初反対された。特に夫の母親は主人公の家柄が気に入らなかった。

「何も母子家庭の娘なんかと…」

地元でも裕福な農家であるだけに、嫁にふさわしい良家の娘はいくらでもいるのにと母親は残念でしかたがなかった。

主人公と結婚した夫は、田舎の親類や世間体に縛られる生活を嫌い、妻にするなら姻戚の少ない女性を願っていた。

しかし、障害のある子供が生まれると夫の態度が変わった。夫には、そのような子供を守り育てる覚悟がなかった。

実家からも、「まだ若いんんだから、別れて出直してみた方がいい」というような身勝手な忠告もあり、夫は悩んだ末、離婚を決めた。

主人公は離婚によって強く傷つくことはなかった。母子家庭での暮らしのせいか、「人なんてそんなもんだ」という冷めたものが主人公にはあった。

主人公が落ち込んだのは、離婚して間もなく母親が病に倒れたことだ。長年の苦労が母親の身体を蝕んでいた。

主人公は入院した母親を気遣いながら、障害のある幼い子どもを抱えて看護師の仕事に励んでいる。

新生児を誘拐する動機は?

主人公の娘には生まれつき心臓の機能に異常があり、現在の医療技術では移植しか救う方法がなかった。

主人公はドナーの提供に微かな望みをかけたが、中々順応するドナーは見つからなかった。

看護師である主人公の中に、ある考えが浮かぶ。毎日のように誕生する新生児の生理的データを密かに調べ始めた。

しばらくして、新生児の中に娘のドナーになりうる子供を見つける。

新生児を誘拐できるのか?

主人公は宿直の深夜、ペットボトルに用意しておいた灯油を物置に撒いて火をつけ、非常ベルを鳴らす。

入院中の妊婦や新生児を避難させようと騒然とする中、主人公は目的の新生児を隠すようにして病院から抱えて出ると、同僚達にわからないようにして、一旦は駐車している自分の車に隠した。

警察や消防の対応に追われる同僚たちを尻目に、幼い娘がいるからと勤務を終えて新生児を自宅へ連れ帰った。

どうして犯行は露見しないのか?

病院内の監視カメラを調べた警察は、居なくなった新生児を主人公が運び出すのを確認した。

主人公は事情聴取を受けたが、「あの時は夢中で赤ちゃんたちを病院の外へ運びました。私は保育器室から赤ちゃんを運び出すのに専念していましたので、運び出した赤ちゃんたちは外に待機した同僚に預けました。その後のことはわかりません」と答えて誤魔化した。

監視カメラには、主人公をそれ以上怪しむ証拠は映っていなかった。外で新生児を受け取った同僚たちも、主人公と同じように運び出した同僚も、慌てた状況での出来事だったので、居なくなった新生児の行方について確かな証言をするものは居なかった。

物語の結末(ゴール)は?

物語の結末(ゴール)は?

主人公は、家族に臓器を移植する直前で、新生児への愛が目覚めて移植を断念し、人間性を取り戻す。

物語で一番伝えたいことは?

愛する家族のためとはいえ、自分たちだけ助かりたい身勝手な欲望は、本来人の中にある生命への尊厳にたいする良心に勝てない。

娘の手術はどうやってするのか?

誘拐した新生児をドナーにするなど、正式な手続きではないので、娘の手術は正規のものではできない。

主人公は一人の青年医師に目を付けていた。主人公が勤める産婦人科医院に従事する青年医師は、経験と技術不足から以前に医療ミスを犯していた。

その医療ミスは患者の家族や病院にも知らされなかった。青年医師から主人公は懇願されて黙っていたのだ。そのことを知っているのは、その時の手術の補助に立ち会っていた主人公だけだった。

主人公はその青年医師を脅して、大学病院の心臓外科の教授をしている青年医師の父親に娘の手術をしてくれるように頼む。

物語の転換点は?

主人公が自分の過ちに気づき、人間性を取り戻す瞬間は?起承転結のプロットの「転」の部分です。

主人公は娘のドナーを用意するために、誘拐した新生児の命を奪おうとします。

主人公が新生児の首を両手で締めようとした時、何も知らずに微笑んだ新生児の瞳に、主人公は自分の恐ろしい顔が映っているのを見ます。

その瞬間、主人公は自分の犯そうとしていることに愕然とする。

物語のコンセプトは?

「夫と別れて心臓に障害のある幼い娘を一人で育てている看護師の主人公は、娘のドナーにと勤める産婦人科医院から新生児を誘拐するが、新生児の命を奪おうとした時、自分の犯した過ちに気づく」

物語のモチーフは?

「瞳(ひとみ)」というのはどうでしょう。

物語の転換点になる新生児の瞳。物語の前半で、我が子の笑顔に輝く瞳が、苦しい主人公を支える生きがいというように物語のテーマの象徴にしたらどうでしょうか?

実践練習の感想

まだまだ細部を疑問で深堀する必要がありますが、「疑問を重ねる」ことで、物語の様々な部分が具体的に見えてくることが実感できました。

疑問を重ねることは、ブレインダンプをすることと同じです。疑問は想像を刺激します。物語を想像するには疑問を重ねるのが最適な方法だと思いました。

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