小説は自分の内面の投影だと思いませんか?
どんな物語を書くとしても、自分の内面から生まれる言葉やイメージが表現されます。作者の内面が表れるから個性が生まれます。
小説のもっとも基本の構成はコンセプトです。小説全体を貫くテーマを、簡潔に表現したものです。特に一行で表したものを一行コンセプトと言われていて、コンセプトの理想とされています。
私はコンセプトも作者の内面を表す方法で作れないかと考えました。内面を分析して出てきた要素(言葉)を使ってコンセプトが作れないかと思ったのです。
前回(『小説を書く修行12「自分の内面分析から物語のコンセプトを作る方法」を実践してみた』)、簡単に行った内面の分析が物足りなかったので、今回改めて内面を深く見つめてみました。
それだけでは面白くないので、内面の分析を元に新しい一行コンセプトを作り、そこから世界観をふくらませる方法を実践しようと思います。
内面分析から一行コンセプトと世界観を作る方法を実践してみた
「恐怖」「短所」「長所」の3要素に絞った内面の分析
人の内面には様々な要素がありますが、コンセプトを作るのに最低限必要な要素は、「恐怖」「短所」「長所」の3つだと考えました。
- 恐怖:自分が恐れていること。
- 短所:自分の劣っていること。
- 長所:自分の優れていること。
この内面の分析は、自分の内面を言葉で表して列挙(リストアップ)する自己分析で行います。
今回、「恐怖」の要素(言葉)を23、「短所」を27、「長所」を23個列挙することができました。
内面の分析は以下の要領で行います。
- 同じような意味の言葉でも構わず列挙する。
- 短所と長所で矛盾するような言葉でも列挙する。
同じような意味の言葉でもイメージは異なるからです。小説はイメージを言葉で表現する行為なので、同じような意味でも言葉が異なれば違うイメージを生むものとして列挙します。
また、例えば短所の要素で「ケチ」、長所の要素で「倹約家」と矛盾する言葉であっても列挙します。割合は違っても、相反する要素が人の内面には共存すると思うからです。
内面の3つの要素(言葉)から一行コンセプトの原型を作る
一例として、3つのの内面の要素から次の言葉を選びました。
- 「恐怖」から「馬鹿にされること」
- 「短所」から「他人の評価を気にする」
- 「長所」から「約束を守る」
次に、3つの言葉を、起承転結の構図の中に配置します。
- 「馬鹿にされること」を恐れてーーー起
- 「他人の評価を気にする」主人公はーーー承
- 「約束を守る」子供の勇気に心を打たれーーー転
- 「馬鹿にされること」に打ち勝ちーーー転
- 新しい生き方を手に入れるーーー結
この起承転結をつなげて文章にすると、一行コンセプトの原型になります。
「馬鹿にされることを恐れて他人の評価を気にする主人公は、約束を守る子供の勇気に心を打たれ、馬鹿にされることに打ち勝ち、新しい生き方を手に入れる」
コンセプトの「原型」としたのは、まだ抽象的なままなので、具体的なイメージに発展させる必要があるからです。
一行コンセプトの原型を具体的イメージ=世界観に発展させる
抽象的な言葉を具体的なイメージにするために、それぞれの言葉からエピソード・場面を想像します。
具体的なイメージは、物語の世界観(物語の舞台・時代背景、登場人物の関係性など)を描くことにもなります。
「馬鹿にされること」を恐れて
子供の頃にいじめられていた主人公は、自分のような生徒を作りたくないと教師になったが、教師になっても気弱で不器用な主人公はいじめられていた。
「他人の評価を気にする」主人公は
理想の教師になる自信を失った主人公は、上司や同僚たちに気に入られようとしている卑屈な自分を嫌悪していた。
「約束を守る」子供の純粋さに心を打たれ
一人の転校生が、教頭の孫にあたる同級生からいじめを受けるのを目撃した主人公は見て見ぬふりをする。
助けなかったのを転校生の親に知られるのを恐れた主人公は、転校生に口止めを頼む。
子供の怪我に驚いた親が学校に押しかけるが、転校生は主人公の名前は出さなかった。
「馬鹿にされること」に打ち勝ち
口止めという卑劣な約束でも固く守った転校生に、主人公は自分の卑怯さを恥じる。
主人公はいじめの目撃者として証言するとともに、転校生を助けなかったことを告白する。
新しい生き方を手に入れる
騒動の後、影の権力者である教頭や取り巻きの職員からのいじめは更にひどくなるが、以前と違う主人公の変化に同調する職員も現われ、主人公は教師を目指したころの夢に向かって歩き出す。
具体的なエピソード・場面から一行コンセプトを完成させる
「いじめられた経験のある主人公は、いじめのない理想を抱いて教師になるもいじめを受けて自信を失うが、いじめの被害を受けた転校生の勇気ある姿に自らを恥じた主人公は、回りのいやがらせに屈することなく初心の夢を取り戻す」
具体的なイメージがあれば一行コンセプトは不要か?
具体的なエピソード・場面に比べて、一行コンセプトはかなり省略されています。
一行コンセプトは不要なように思えますが、小説を書いている途中でコンセプトに立ち返る時に、短い文章の方が分かりやすいと思います。
また、一行にするとコンセプトの欠陥を把握しやすくなります。コンセプトに欠陥があると、自然な文章になりにくいのです。
更に、外部に発表、説明する場合に、一行で伝える方が分かりやすく、評価の判断を受けやすい点があります。
コンセプトを一行で表現できないような作品は評価されない場合があります。
内面分析から一行コンセプトと世界観を作る方法を実践してみた感想
- 内面分析した3種類の要素(言葉)の組み合わせで、かなりの数のコンセプトを作る可能性を感じた。
- 一行コンセプトの原型は抽象的なので、そこから具体的なイメージ=世界観に発展させるのは想像力が必要だったが、一番楽しい作業にも思えた。この作業で想像を飛躍できれば、もっと奇想天外な物語が作れると思う。
- 内面分析で列挙する言葉は、抽象的な方がコンセプトを考える時に想像する範囲が広がると感じた。