小説を書く時に、「コンセプト」を考えておく必要があることを知っていましたか?私は知りませんでした。
コンセプトというのは、物語全体を貫くテーマです。物語の始めから終わりまでを貫く軸のようなイメージで、物語の中で起きることは軸から外れてはいけないとされています。
コンセプトからはずれたエピソードは、テーマや世界観をぼやけさせるからです。全てのエピソードは、コンセプトにつながるものでなければならないのです。
物語の流れがテーマから外れないように、小説を書く前にコンセプトを決めておく必要があるのです。
よく映画の脚本の書き方の本などで、「作品のコンセプトを一行で表せないのは駄目な作品」のように説明されています。「一行コンセプト」と言われているように、コンセプトは一行で表せるように作るのを、私も目標にしたいと思います。
でも、たとえ一行の短いものであっても、いえ、短いほどコンセプトを考えるのは難しく感じます。小説のアイデアも同様ですが、ゼロからコンセプトを作るにはどうしたら良いのでしょうか?
私はコンセプトを、作者自身の内面分析から作る方法があるのではないかと考えました。
小説というのは、作者の思いや感情を登場人物に投影したものだからです。作品には作者の内面が反映されているのですから、コンセプトを作者の内面から作る方法もあるのではないかと思ったのです。
物語のコンセプトを自分の内面分析から作る方法を実践してみて、コンセプトを作る大切さが理解できました。
物語とは人間の葛藤=戦い
物語とは何か?と考えた時に、煎じ詰めると「人間の葛藤」だと言えます。葛藤とは戦いです。
戦いを教訓として子孫に言い伝えたのが物語の役割だと言う見方もあります。この見解に立つとすれば、人間は昔から何と戦って来たと言えるのでしょうか?
主人公と恐怖との戦い
私は、人間が戦って来た相手は「恐怖」だと考えました。「餓えることの恐怖」、「天変地異による災害の恐怖」、「危害を加える動物や敵対するグループへの恐怖」などです。
人間の先祖は恐怖とどう戦い、どう勝利し、どう負けたのかを、教訓として子孫に伝えるのに物語を使ったと思います。
物語とは、主人公が恐怖と戦う話だと言えます。
恐怖は主人公の内外にある
人間の社会が高度になるにつれて、恐怖をもたらす相手は目に見えない敵、自分自身という場合も現れてきます。
外部の敵=恐怖と戦うだけの物語は単純で面白くありません。例えば、おとぎ話の『桃太郎』の物語には、主人公の桃太郎と鬼たちの戦いはありますが、桃太郎の内面的な葛藤はありません。桃太郎が、「罪のない子どもの鬼まで殺してしまった……」みたいに苦悩したりすれば、単純な物語も複雑化して面白みが出てきます。
物語の大きな流れの中の戦いをメインプロット、登場人物の内面の葛藤=戦いをサブプロットと説明している小説の書き方の本があります。
私は以前、プロットをメインとサブに分けたりする意味が良くわかりませんでした。物語は葛藤=戦いだと考えるようになって、初めて理解できました。
桃太郎のおとぎ話のように、内面の葛藤がない話は、人間社会が複雑になった現代では面白さを感じないからだと思います。
自分の内面の「恐怖」「短所」「長所」を棚卸し
先程のメインとサブのプロットの考え方から言えば、私がこれから実践してみようとしているのは、サブプロットの方になると思います。人間の内面の葛藤=戦いという構図を作るやり方で、物語のコンセプトを作る方法です。
まだ大きな物語を作るレベルではないので、サブプロットを作るだけで小さな物語は作れると思います。
内面の葛藤を考えるには、内面が明らかになっている必要があります。自分(作者)の内面を棚卸しします。自分の内面を、「恐怖」、「短所」、「長所」の3つのポイントに絞ってリストアップします。
本来は可能な限り内面を出し尽くすべきですが、この場では3つだけにしておきます。
恐怖
- 死ぬことが怖い
- 人間が怖い
- 孤独が怖い
短所
- 我がまま
- 内気
- 短気
長所
- 親切
- 努力家
- 真面目
コンセプトの構図に内面の要素を当てはめる
リストアップした「恐怖」「短所」「長所」を次のようなコンセプトの構図に当てはめます。
この構図は、「起承転結」の形式にも対応しています。1が「起」、2が「承」、3、4が「転」、5が「結」になります。
- 「恐怖」に負けていた
- 「短所」な主人公が
- 眠っていた「長所」を何かに奮い起こされて
- 「恐怖」に立ち向かい
- 新しい生き方に目覚める
一行コンセプトを完成させる
コンセプトの構図に当てはめた内面を元に、更に詳細を加味してコンセプトを完成させます。一行コンセプトになります。
- 重い病で生きることに絶望していた
- 我がままな主人公が
- 難病の少年の努力する姿に心を打たれ
- 死の恐怖に立ち向かって手術を受け
- 生きる希望に目覚める
「重い病で生きることに絶望していた我がままな主人公が、難病の少年の努力する姿に心を打たれ、死の恐怖に立ち向かって手術を受け、生きる希望に目覚める」
あまり完成度は良くありませんが、一応コンセプトと言えるものはできました。小さな物語ですが、物語全体を貫くコンセプトになっています。
内面分析に「短所」と「長所」を選んだ理由
どんな物語を書く場合でも、作者の思いが強く込められるのは、自分の内面と共感できる時です。
主人公が「恐怖」に負けているのは主人公の弱さからですが、その弱さに最も強く共感できるのは作者自身の短所と重なる場合です。
同様に、主人公が「恐怖」に打ち勝つきっかけになる「転」の場面で、主人公の勇気に最も共感できるのは作者の心の奥にある長所に触れる時です。
自分の内面分析から物語のコンセプトを作る方法を実践してみた感想
- 自分の内面を更に出し尽くしたら、もっと面白い物語のコンセプトができると思った。
- コンセプトの構図の最後の段「新しい生き方に目覚める」は、主人公の内面に変化が起きたことを意味する。主人公の内面が変化することに価値がある。
- コンセプトの場合でも、一番需要な部分は「転」の主人公を奮い起こさせる場面で、ここのアイデア次第で物語の成否が決まる。